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骨軟部腫瘍グループ

責任スタッフ:瀬戸口啓夫、永野聡、佐々木裕美、天辰愛弓、徳久陽一郎

腫瘍幹細胞を標的とした新規治療法

1.研究の学術的背景

近年ヒトの癌組織中にも造血幹細胞や神経幹細胞と同じように無制限に分裂可能な能力を持ったがん幹細胞が存在していることが明らかとなってきた。白血病や肺がん、神経膠腫の一部はこれら少数のがん幹細胞が分化増殖することによりがん組織全体を構成することが報告されている。現在主流を占めている放射線治療や化学療法などはがん幹細胞には治療効果が低いと推察されており、再発や転移には生き残ったがん幹細胞の関与が大きいことが示唆されている【図1】。

がん幹細胞をターゲットとした治療法の開発のためにはがん幹細胞を濃縮・精製し、その維持・増殖×分化メカニズムを解明することが必須である。しかし生体内の多くの組織中には正常な幹細胞が存在しており。CD133などのがん幹細胞マーカーは元々正常幹細胞のマーカーであるため、生体癌組織からがん幹細胞のみを濃縮・精製するのは非常に困難である。 我々は正常幹細胞のコンタミネーションがほとんど無いと考えられる癌細胞株からがん幹細胞様の細胞であるSP細胞をFlow cytometryを用いて比較的容易に精製する方法を報告している。これらの癌細胞株中のSP細胞は自己複製能と多分化能を持ち、腫瘍形成能力が有意に高いがん幹細胞様の細胞であることも合わせて報告した。

【Persistence of a small subpopulation of cancer stem-like cells in the C6 glioma cell line. Kondo T. Setoguchi T. Taga T. Proc Natl Acad Sci U S A. 101,781-786, 2004 】

【Cancer stem cells persist in many cancer cell lines. Setoguch T., Kondo T., Taga T. Cell Cycle 3,414-415, 2004 】

現在、我々は骨軟部肉腫における幹細胞、肉腫幹細胞の同定と解析の研究を行った。その結果、Fibroblast growth factor receptor 3の抗原に対する抗体を利用することにより腫瘍形成能力が著しく高い横紋筋肉腫幹細胞様細胞(Rhabdomyosarcoma-initiating cells:RICs)を濃縮することを可能にした。このRICsをヌードマウスに移植するとたったひとつの移植細胞からも腫瘍を形成し得ることが確認されている。

【Tumour formation by single fibroblast growth factor receptor 3-positive rhabdomyosarcoma initiating cells. Hirotsu M. Setoguchi T. Matsunoshita Y. Sasaki H. Nagao H. Gao H. Sugimura K. Komiya S. British Journal of Cancer 2009; 101:2030-37】

今後はこの手法を応用いて骨軟部肉腫の肉腫幹細胞を精製し、その維持・増殖機構を解明することにより肉腫幹細胞をターゲットとした分子標的治療法の研究開発を行う。

2.細胞分化・増殖機構

がん組織では胎児から成体への発生段階で発現している遺伝子が再活性化していることが報告されている。がん幹細胞の維持・増殖にも胎児期に活性化されているNotch, Hedgehog, Wnt pathwayが重要な因子であることが報告されている。そこで我々は骨肉腫におけるNotchシグナル, hedgehogシグナルの機能について検討を行った。

(1)Notch signal

Notchは細胞膜に存在する受容体でそのリガンドであるJaggedやDLLなどと結合すると Notch受容体の細胞内領域(Notch-IC)がγ-secretaseなどのプロテアーゼによって切断され核内に移行し、DNA結合蛋白質であるCBF1と結合して標的因子を転写活性化する。

我々はヒト骨肉腫細胞株においてNotch シグナルが活性化されていること、Notch シグナルを特異的に阻害すると細胞周期を制御することにより骨肉腫の増殖をin vitro, in vivoにて抑制可能なことを見出した。本研究は、Notch シグナルが骨肉腫の新たな治療的ターゲットとなりうることを示唆している。

【Inhibition of Notch pathway prevents osteosarcoma growth by cell cycle regulation. Tanaka M., Setoguchi T., Hirotsu M., Gao H., Sasaki H., Matsunoshita Y., Komiya S. British Journal of Cancer 2009; 100:1957-65.】

(2)Hedgehog signal

我々は骨肉腫においてHedgehog シグナルが活性化していることを見出した。Hedgehogシグナルを特異的阻害剤や正の制御因子であるSmoothenedをsiRNA, shRNAで阻害するとin vitro, in vivoにおいて骨肉腫の増殖抑制効果があることを見出した(Smoothened as a new therapeutic target for human osteosarcoma. Hirotsu M. Setoguchi T. Sasaki H. Matsunoshita Y. Gao H. Nagao H. Kunigou O. Komiya S. Molecular Cancer 2010; 9:5)。
骨軟部肉腫は病態・病因が多様なため、その他にも多角的に研究をおこなっている。M/p>

【Suppression of Osteosarcoma Cell Invasion by Chemotherapy Is Mediated by Urokinase Plasminogen Activator Activity via Up-Regulation of EGR1. Matsunoshita Y. Ijiri K. Ishidou Y. Nagano S. Yamamoto T. Nagao H. Komiya S. Setoguchi T. PLoS ONE 2011; 6(1): e16234】

【Knock down of over-expressed EZH2 and BMI-1 do not prevent osteosarcoma growth. Sasaki H. Setoguchi T. Matsunoshita Y. Gao H. Hirotsu M. Komiya S. Oncology Reports 2010; 23: 677-84】

【Hyperbaric oxygen as a chemotherapy adjuvant in the treatment of osteosarcoma. Kawasoe Y, Yokouchi M, Ueno Y, Iwaya H, Yoshida H, Komiya S. Oncology Reports. 2009;22:1045-50.】

【Efficacy of the third-generation bisphosphonate risedronate alone and in combination with anticancer drugs against osteosarcoma cell lines. Murayama T, Kawasoe Y, Yamashita Y, Ueno Y, Minami S, Yokouchi M, Komiya S. Anticancer Res. 2008;28(4B):2147-54.】

【HAS3-related hyaluronan enhances biological activities necessary for metastasis of osteosarcoma cells. Tofuku K, Yokouchi M, Murayama T, Minami S, Komiya S. Int J Oncol. 2006;29:175-83.】

今後もこれらの研究を進め、新規骨肉腫治療法の開発に貢献したいと考えている。